第2章 急激なフラマ・サイト・ブームと戦国模様

 
 
日本のGROUPON型のサイトは、Pikuが2010年4月20日にサービスを開始して以来、これまで約半年の間に急激に増えた。現在では、総数は100を超えるとも言われている。
日本のフラマ戦国模様、言い換えると、フラマ・サイト業界の競争状況は非常に興味深いものであり、なかなか目が離せない。
それは、以下の3つのことが同時期に起こっているからである。
 
①新規参入企業の急増
②既存大手企業の参入
③米国GROUPONの参入
 
わずか半年の間に、ベンチャー、既存大手企業、外資系企業による異種格闘戦が一気に始まったというわけだ。
上記の各プレーヤーは、それぞれに強みと弱みを持ち、様々な戦い方を仕掛けている。
以下、それぞれのプレーヤーの状況を見てみよう。
 

1.新規参入企業の急増

 
先に述べた、100を超える企業の大部分は、新規参入企業である。
これほどまで多数の企業の早期の参入が可能であった理由は、大きく2つだろう。
1つはシステム開発に必要な工数があまり大きくないこと、もう1つは店舗に関する情報収集・営業については、そんなに難しいものではないということだ。
システム開発については、企業インタビューの際に「開発自体には1ヶ月も掛からなかった」という声もよく聞いたし、今ではGROUPON型のフラッシュマーケティング・システムをASPで提供している企業が数社ある。
また、営業について見ると、店舗の情報自体は雑誌やウェブ・サイト等で様々な形で流通しているため入手は簡単だ。次に、店舗への営業提案は初期費用を必要としない成功報酬型のものなので、営業も提案しやすく店舗側も話を聞きやすい。つまり、営業の難易度としては、そう高いものを求められず、営業スタッフを採用し育てる期間が短くて済むので、新規参入が容易となったわけである。

ただ、見方を変えれば、システムや、営業力で差別化することは難しいということだ。
事実、参入が増えるにつれて、人気の高い飲食店などには早くも複数の営業提案が持ち込まれ、「営業電話が多くて困る」という声があるし、手数料率の値引き競争になっているとも聞く。
今後の激しい競争を考える時、市場拡大期を勝ち抜くためには、手数料をある程度ディスカウントできる体力(資金力)も重要な要素になるだろう。

2.既存大手企業の参入

 
フラマ・サイトで扱うディールの比率を見ると、やはり飲食店の比率が高い。
従来から飲食店向けの集客系インターネット・ソリューションを提供してきた有力企業としては、リクルート(ホットペッパーグルメ)、ぐるなび、カカクコム(食べログ)、USEN(グルメGyaO)、ぱど、などがある。
今回のフラッシュマーケティングのブームについて、こうした有力企業各社は指をくわえて見ているわけではない。
これらの中では、ぐるなびだけがPikuとの提携による展開を選んだものの、他は自社サービスの展開を開始した。
また、ネットプライスが、PCとモバイルのギャザリングで培ったノウハウを組み合わせ、日本版ツイッターの運営会社であるデジタルガレージとの共同出資で、この分野に参入したQponもユニークだ。
 
当然のことながら、既存大手企業の強みは既存の会員、ウェブ・サイトに来てくれるユーザー、これまでに培った飲食店との関係である。
彼らが本気になれば、数多くの新規参入フラマ・サイトは無残にも敗退を余儀なくされるのだろうか。
私は、それは一概に言えないと思う。
 
その理由は、上記の既存企業が従来とらえてきたユーザー・ニーズと、フラマ・サイトがとらえようとするユーザー・ニーズには明らかな違いがある。だから、既存企業にも、全く新しいスキル・セットが求められ、ある意味同じスタートラインに立つ部分があるからだ。
具体的に考えてみよう。ぐるなびや食べログを利用するユーザー・ニーズの大部分は、「どこかのお店に行きたいときに地図やメニュー、クーポンの有無などを調べる」ことである。次に多いユーザー・ニーズは、「何らかの宴会やデートのために、お店を探す」というものだろう。
これらはいずれも、「何をするか」が決まっていて、その先のプロセスをサイトが支援するわけだ。
一方で、フラマ・サイトが捉えようとしているユーザー・ニーズは、「何か新しいお店、面白いことを経験してみたい」というものである。
つまり、消費者の購買行動のプロセスから見れば、フラマ・サイトのサービスは、より上流のプロセスに働きかけることを狙っている。
インターネット・サービスで一般的に用いられるAISASフレームワークで話すなら、従来サイトは3番目のS(Search:検索)から関わることが通例であるのに対して、フラマ・サイトは最初のAI(Attention:知る、Interest:興味を持つ)の部分に働きかけて、S(Search:検索)を飛ばして一気にチケットの販売(Action)までつなげる仕組みなのだ。
その意味では、フラマ・サイトの機能は、従来で言えば雑誌やテレビの情報番組の果たしていた機能に近い。細かく見ればテレビの情報番組は、雑誌の情報を参考にして作られる部分も多いから、根源的には雑誌の機能と言ってしまっても良いのかもしれない。
この辺りのさらなる深掘りは第8章にて行いたい。
 

3.米国GROUPONの日本市場への参入

 
平成22年8月中旬、実はこの書籍執筆のためにQpodにインタビューのお願いをしていた最中に、米国GROUPON社のQpodへの大規模出資のリリースが各ニュース・サイトやTwitterを駆け巡った。
GROUPONは日本に本格的に進出するのと同じタイミングで、ロシアにも展開することを発表している。資本力と高い収益力を背景に、一気にグローバル展開を図る動きだ。【記事】
彼らは5月にもCityDeal社を買収し、ヨーロッパに進出している。【記事】
 
Qpodは、以前からベンチャー・キャピタルからの大規模な資金調達を行っており、フラマ・サイトの中でも資金力の豊富な企業。山手線の車内広告ジャックや、Apple社のiTune Music Storeのチケットのディールなどで大規模な広告や会員獲得の取り組みを進め、注目を浴びていた。
ちなみに、山手線車内広告について検索して見ると、結構なエントリーが引っかかる(例)。それなりにキャンペーンの注目度は高かったと言えるだろう。
そこにさらに、GROUPONの資金が投下される(tech crunchの記事によれば1,000万ドルの資金投下)となると、フラマ・サイト事業は資金だけの勝負ではないにせよ、資金力に劣る他のプレーヤーとしては驚異に感じる部分もあるだろう。
 

4.これから参入する可能性のある企業

 
既に多くの参入企業があるものの、まだ様子見をしている企業はある。この時点で様子見をしているのは、既にフラマ・サイトを展開するための強みを持った企業だ。
彼らが参入する場合は、既に参入している企業との連携(場合によっては吸収)も十分にあり得る。参入の可能性のある企業は以下の様な企業が考えられる。
 
・インターネットメディア
  検索ポータル、総合ポータル
  携帯キャリア・ポータル
  ターゲット特化ポータル(女性、育児中女性、シニア等)
・カード会社(※決済手数料部分のメリットも有る)
・共通ポイント企業
・通信キャリア、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)
・新聞社、雑誌社、テレビ局
・地域の有力企業、有力NPO ※地域の活性化と密接な事業体
 
以上が日本で始まったフラマ戦国時代の幕開けの様子である。
いずれが勝ち残ることになるのか、さらにそのための条件については後の検討としたいが、間違いなく言えることは、これだけの数とバラエティに富んだプレーヤーがフラマ・サイトに取り組むからには、必然的に消費者に与えるインパクトも大きくなり、メディア露出も増え、新しい市場が形成されていくということだ。