facebookがGROUPONを抹殺できない理由【後編】

前編から続く

b.クライアント視点からの比較

◆利用対象者の限られる現時点では、facebookクーポンを使いたいという企業は限られる

前編で記述した通り、現状、facebookクーポンの利用対象者は限られる。特に日本では、その傾向が顕著だろう。
確かに現在の対象者にはインフルエンサー的なユーザーが多く含まれるので、取り組む意味が無くはないが、一部の企業に限られるだろう。

クーポン・サービスは、魅力的なクーポンが供給されないとユーザーを維持することが難しい。その観点では、facebookがよほどのドライブを掛けない限り、当面は盛り上げることが難しいだろう。
facebookとすれば人口普及を見ながら、タイミングを見て勝負を掛けると考えられる。

※前回の記事の後、facebookクーポンはフィーチャーフォンのfacebookからも利用可能との指摘をいただいた。実際に確認したところ、確かに利用可能。理論的には、facebookユーザーの中での利用対象者は高い割合になり得る。ただ、GROUPON等の様に、告知の努力が適切になされればという条件は必要だろう。

◆facebookクーポンは、GROUPONの様な大規模な新規集客というよりも、日々の稼働率アップ、お試し客誘導に使いやすい

facebookの機能的な特性を踏まえると、大規模な新規集客や広告効果を見込んで思い切ったディスカウント・ディールを実施するというよりは、日々の稼働率の底上げやお試し客誘導に向いている。
将来、利用対象者が多くなってくれば、facebookクーポンを上手く使っていくことの意味が大きくなるだろう。

◆セルフ型であるが故に大部分のクライアントにとっては使いづらい

セルフ型であるというのは、コストが安く、柔軟性を持たせやすいというメリットがあるが、クライアント側のリテラシーが求められるというデメリットもある。

店舗ビジネスにとって最も重要なことは出店であり、商品選定・サービス提供であるから、プロモーションに避ける労力や時間は限られる。

GROUPON等であれば営業とのやりとりの中で進めることができるが、セルフ型の場合は、全てスタッフが調べて判断をしていくという負荷が掛かるため、取り組みに消極的になる可能性もある。

Twitterを使ったプロモーションほどのレベルは求められないが、ある程度リテラシーがあり、時間の割けるスタッフのいる店舗がfacebookクーポンを利用することになるだろう。
一方で、個店毎の機動性、タイムリー性を犠牲にしても良いと割り切って、クライアントが紙媒体やネット媒体等のプロモーション・エージェントにfacebookクーポンの管理も依頼するようになるかも知れない。

◆GROUPONの様な副次的な広告効果はfacebookクーポンには望めない

ディールを告知する場合のリーチ、インパクトについて考えると、現時点では特にインパクトでfacebookクーポンはGROUPONに大きな差がある。
具体的には、読み物コンテンツによりインパクトを出せるGROUPONの場合は、副次的な広告効果も期待できるが、facebookクーポンの場合、それは難しいからだ。

さらには、GROUPONが様々な媒体を使って集客を図っているのに比べ、facebookクーポンは、ほとんどそうした努力をしていない。それゆえ、実質的なリーチにも相当な差は生じていると考えられる。

◆現状、facebookのクーポン掲載の費用が無料であることは魅力

何と言っても掲載の費用が無料であることは大きい。
GROUPONでディールを実施する場合、ともすれば収支が非常に厳しいこともある。さすがに手数料率については50%までは言っていないと思うが、30%にしてもかなりの経済的なインパクトであるから、無料というのは魅力だろう。
ただ、先述の様に、両社が提供するクライアント価値は異なるので、費用対価値で考える場合、一概に無料だから良いとも言えないことはご理解いただけると思う。

c.事業面からの比較

◆GROUPONは莫大な会員獲得コストを払っているが、facebookにはその必要がない

GROUPONの事業構造を見ると、収益を最も圧迫しているのは新規顧客獲得のための広告宣伝費である。USの状況は下図をご参照。

facebookはUSでは50%程度の人口普及率(アクティブ・ベース)、登録ベースではもっと高い普及率だろうから、これ以上無理に会員を増やす必要もないだろう。
また、GROUPONは莫大な広告宣伝費をfacebookにも投下していると考えられるから、ここについては、かなりの力の差が生じている。

日本の場合は、先述の様にまだfacebookの人口普及率は高くない。膨大な広告費を使って会員獲得を進めているGROUPONと比較すると、facebookは資金投下をして会員獲得を進める動きは見られない。

◆クーポンやディールの告知は、facebookが本気になればかなり有利

facebookはそもそも広告媒体なので、自社の広告枠を融通したり、空き枠を有効活用することができる。(ちなみに、Googleも同様の強みを持っている)
クーポンを取得するとフィードに出るという手法には疑問を感じるが、右側の広告枠を連動させることは容易であり、告知については有力なオプションを持っていると考えられる。

◆GROUPONの競争力は地上戦の戦闘力

ユーザーにとって魅力的なディールをクライアントと対話しながらまとめる力は、facebookには全くと言って良いほどない。GROUPONが膨大な費用を投下して営業を採用し、店舗クライアントとの間に築いた関係は大きな競争力だ。

一方で、facebookとすれば今から営業スタッフを増員する気はないだろう。
今後の戦略にもよるが、新規顧客を一気に集客するというフラマ・サイト型の価値をfacebookがクライアントに提供する場合はパートナー企業と提携するか、フラマ・サイトを買収するのではないだろうか。

さらに付け加えるならば、GROUPONの魅力的なディール記事を作り上げる編集力も見逃すことはできない。GROUPONは地域に密着した編集スタッフの採用にも力を入れており、事業としての競争力となっていることは間違いない。

d.総合比較と結論

◆基本的に現時点では棲み分けられる構造。今後、リアルタイム・オファー分野は激戦に

現時点の両社のサービスを見ていると、これまで見てきたようにそもそもの提供価値が異なっている。
ユーザーから見た場合、GROUPON(共同購入クーポン)は計画的に消費を準備する場合に利用するサービス、facebookクーポン(リアルタイム・オファー)は「今日のランチはどうしよう?」、「今夜はどこで呑もうか?」といったリアルタイムなニーズに応えるサービスであるからだ。

ただ今後、リアルタム・オファー分野は激戦になる。
USではGROUPON NOW!が本格化することは間違いない。日本ではさらに、ロケーションバリューのイマナラ、リクルートのRecoCheckといったサービスがあり、激しい戦いが起こることは必至だ。

では、リアルタイム・オファー分野の勝者はどこになるだろうか。

この手のサービスの立ち上がりを考えると、魅力的なクーポンをどれだけ出せるかが決め手になる。
「さーて、いい店ないかな」とサービスを起動した際に、どれだけ魅力的なクーポンを出せるかの勝負である。何度も期待はずれな結果が続くと、徐々にサービスは使われなくなってしまうからだ。

その意味では、魅力的なクーポンを調達できる営業力は不可欠の要素であり、GROUPONやリクルートに有利だろう。

やや細かな話ではあるが、リアルタイム・オファーの各サービスについては、まだまだユーザー・エクスペリエンスの改善が必要だ。特にfacebookの場合は、スポット→チェックインからの流れでしかクーポンにたどり着かず、チェックインを日常的に使わないユーザーにとって不便であることは明らか(アーキテクチャーとして、そう整理したい気持ちも分からなくもないが…)。真にユーザーの立場に立った優れたインターフェイスを開発することも、リアルタイム・オファー分野の勝者になるための重要な要素であることは付け加えたい。

◆facebookとGROUPONの進化シナリオの違い。そこから見えてくること

両社はいずれも会員制事業であり、事業ドメインは重なる部分もあるが、基本的には事業のレイヤーが違う。facebookは生活者や企業のコミュニケーション・インフラであるから、GROUPONだけでなく、その競合のLivingsocialや数百の競合サイトにもサービスを提供する立場である。

無論、facebookが垂直統合的にいくつかの事業をグループの中に取り込む可能性はある。

例えば通信キャリアであるNTTドコモがコンテンツ・プロバイダーにi-modeというコンテンツ販売の場所を提供しながらも、ドコモ自身の直営ストアでコンテンツ販売をしている形。モバゲーはゲーム・プラットフォームだが、有力なゲーム会社には出資をして連結メリットを実現している形、等々である。

プラットフォーム上で営業をする事業者とすれば、やや不愉快だが、経済性を考慮してプラットフォーム事業者としての強みを発揮しているのだから仕方がない。

ただ、現時点でfacebookが重視しているのは垂直統合的に事業を拡大することではないだろう。彼らの本質はソーシャル・グラフで圧倒的な優位を作ることだから、人とリアル店舗をつなぐソーシャル・グラフを他の事業者に渡したくないということが根本ではないだろうか。
これからスマートフォンの普及とインターネット・デバイスの多様化、RFIDなどの進化に伴い、リアル消費をネットでプロモーションしたり、リアルの消費行動をネットで補足することが容易になる。その中で人とリアル店舗の関係性について誰が主導権を握るかという戦いを見据えているのかも知れない。

◆リアルタイム・オファー分野の中期的な勝者とは

先述の様に、リアルタイム・オファーの立ち上げ期は、魅力的なクーポンを調達できるGROUPONやリクルートに有利だろう。
ただ、サービスは進化していくものであり、リアルタイム・オファーについても、その例外ではない。セグメント別、ユーザー別のクーポン配信が必ず求められるようになり、クーポンの利用状況等の測定・蓄積と活用も必要になる。
そうした時には、会員の量と質が求められ、システム面でもより複雑な制御が求められることになる。

下図では、リアルタイム・オファー分野に求められる中期的なKFSと、それに基づいたプレーヤー比較を試みる。

facebookがすっかり浸透してしまったUSでは、中期的なKFSの2つをfacebookが抑えることができる。端的に言えば、営業力はいずれかのプレーヤーと提携或いは買収をすれば補完が可能だ。
日本の場合は未だ何とも言えない部分はあるが、US同様にfacebookが強くなれば同じ構造になるだろう。

GROUPONは莫大な費用を掛けて、会員を集め、ディールを消化してきた。この投資が会員の質に反映され、何らかの価値に転換できるのであれば、facebookに一矢報いることができる。しかしながら、現状、GROUPONからなかなかその部分での打ち出しは無いのが残念だ。

◆facebookによるGROUPON買収、或いはGoogleの再チャレンジの可能性

現状のGROUPONに対しては、継続性に疑義を持つ意見も多い。【記事の例
GROUPONは飛躍的な成長を遂げる一方で多大なマーケティング・コスト(主にユーザーを集客するコスト)が問題となっている。
GROUPONの描く理想的なシナリオは、当面マーケティング・コストの負担があったとしても、将来には認知度が向上し会員基盤が確立されるため、こうしたコストが圧縮でき一気に利益が拡大するというものである。
ただ、こうした流れが上手く行かなかった場合、GROUPONは一気に苦境に立たされる。

GROUPONのコアである共同購入クーポン事業の視点から考えてみたい。
フラッシュマーケティングが店舗ビジネスを変える」の第8章に書いた様に、GROUPONの様なサイトが勝ち残る条件は、「良いクライアントを良いユーザーとマッチングし続けられる」ことに尽きる。
現状、この「良いユーザー」の獲得と管理に多大なコストが掛かっているので、この役割を上手くやってくれるパートナーがいるならば、提携は十分にあり得る。
facebookやGoogleは、この役割を担う大きなポテンシャルを持っている。それは、大規模な会員組織であり、広告媒体力、会員をスクリーニングするための履歴情報である。

さらに、先述の様なリアルタイム・オファー分野での中期的な戦いも含めて考えれば、GROUPONが大規模なメディアと提携することは十分にあり得る。
また、GROUPONがそのオプションを選択しなくても、Livingsocialや他のフラマ・サイトはそれを選ぶかもしれない。ちなみに、Livingsocialは昨年12月にamazonからの出資を受け、この6月からAmazonLocalの裏方を始めている。

昨年12月にGROUPONはGoogleからの60億ドルの買収を拒否したと言われているが、仕切り直しも無くはないと考える。
ただ、GROUPONの企業価値(想定)はIPOを前に200億ドルとも言われており(本当に、その値で買う人がいるのか、疑問だが…)、評価が高くなり過ぎで、折り合いが難しいのかもしれない。ちなみに利益の出ているfacebookの企業価値(想定)が500億ドル、Googleは市場ベースで約1,600億ドルである。

仮にfacebookやGoogleがGROUPONを買収すれば、日本ではポンパレが、より大きな視点で新たな選択を求められるようになるだろう。