第1章 フラッシュマーケティングとは

 
 
「フラッシュマーケティング」 Flash Marketing
ふと聞いただけではわかりにくい言葉である。新しいマーケティングの手法のことだとは思うが、具体的なイメージがわかない人が大部分だろう。
具体的には以下の様な形で、主に飲食店やビューティーサロン、ジャズクラブといったリアル店舗のサービスが販売される。

・新しくできたイタリアン・レストランのディナーコース・チケットが
50%オフで手に入る
・有名なホテルのチケットが期間限定60%オフで手に入る
・ミュージカルのチケットが70%オフで手に入る

日本で最初にGROUPON型のフラッシュマーケティング・サイト(以下、フラマ・サイト)を開始したPikuを例に実際にどんなチケットが販売されているか見てみよう。

資料:http://www.piku.jp/recent-deals/tokyo
 
 

1.フラッシュマーケティング・サイトのサービスの特徴

ユーザーから見れば、様々な分野のなかなか手に入らない安価なチケットが手に入る魅力的なサービスである。
このサービスには、従来のクーポン・サービスと違った特徴がある。
その特徴は5つ。

①消費の前にチケットを購入する必要がある
②購入のための期間が限定されている(通常1日)
③取引成立のための最少人数が決まっている(旅行の最低履行人数の様なもの)
④割引率が高いものが多く、50%を超えるものが一般的、80%オフといった場合も
⑤特定の業種に限った紹介ではなく、一般的には1day 1area 1deal形式で様々な業種が紹介される

こうした特徴は、サイトを見れば一目瞭然である。
資料:http://www.piku.jp

上のサイトを見ると、

・(左中)価格と購入ボタン
・(左中)購入が可能な残り時間
・(左下)15人の取引成立ライン(現時点でそれを超えている)
・(左上)に57%OFFの割引率の表示
・サイド・ディール(右側で紹介している別ディール)の表示はあるものの1day 1area 1dealを基本とした形式

といった特徴がわかる。

以下、それぞれについて、従来のクーポン・サービスと比較しながら見てみよう。

1)消費の前にチケットを購入する必要がある

従来のクーポンであれば、ユーザーはクーポンを手に入れるのに費用はかからない。また、お店に入ってから携帯でクーポンを探して精算時に提示するといったことができる場合もある。
ユーザーにとっては負担もなくメリットの多い仕組みである。
ただ、お店から見れば、そもそも通常価格で来てもらえるユーザーにクーポンを発行してしまうと、無駄な値引きになる。常連客にお店に入ってから携帯でクーポンを取得し使われた場合には、全くの無駄が発生してしまうというわけである。
一方、フラマ・サイトのサービスは「リピート顧客となってくれそうな人達に、きちんと新規来店をコミットしてもらいますから、思い切った価格を出して下さい。」というものだ
事前購入という方法は、消費者にとってはやや負担である。ただ、お店にとっては、売上が読めるし、きちんとした対応をする準備もできるメリットがある。

2)購入のための期間が限定されている(通常1日)

ぐるなびやホットペッパーのクーポンは、ある程度の期間は決まっているが、あまり変化しない割引クーポンである。改装をしたり、メニューを大きく変えるタイミングや、年末や春と言った特殊なシーズンの前に変更をすると、そのままの状態がしばらく続く。
一方、フラマ・サイトのクーポンは、一般的に24時間で販売が終了する。早いものだとディール開始後、数十分で売り切れる場合もある。
この期間が限定されていることがユーザーの注目を集める大きな要素となっているし、ユーザーに購入の決断を迫る役割を果たしている。

3)取引成立のための最少人数が決まっている(ツアー旅行の最低履行人数の様なもの)

まさに旅行のツアー企画と同じで、取引が成立するために必要な最少の人数が決められていて、その人数に達しなければ、そのディールは成立しない。
その意味では、友人を誘ったり、他の人に知らせてでも、成立をさせたいという気持ちが働く場合があり、自然に情報をTwitterなどで紹介することにもつながる。
これは中途半端な取り組みを防ぐことができるので、店舗等にすれば、それなりにインパクトのある取り組みに絞って実施することができるメリットがある。
実際にフラマ・サイトのディールを見ていると、最少人数に満たない場合はほとんどない。
後で詳述する著者が実施した8月21日~9月20日の31日間に行われた7社の398件のディールの分析結果を見ると、10件しか不成立にはなっていない(つまり97.5%が成立)。

4)割引率が高いものが多く、50%を超えるものが一般的、80%オフも

フラマのインパクトある特徴の1つがクーポンの割引率が高いことだ。50%を超えるものが一般的であるが、中には80%オフといった場合もある。
新規開店、リニューアル、低稼働時の集客と行った、限られたシーンで、思い切ったクーポンを出して集客を図るというのが、店舗としてのフラマ・サイトの一般的な使い方だろう。
また、先述した、期間限定の特徴と組み合わさって、いつ、どんなお得なディールが始まるかわからないことが、ユーザーの意識を引きつけ、フラマ・サイトのサイト記事やTwitter、メールなどを見ることにつながっている。

5)特定の業種に限った紹介ではなく、一般的には1day 1area 1deal形式で様々な業種が紹介される

フラマ・サイトは一般的に、特定の業種の紹介ばかりをするわけではない。あるときは飲食店、あるときはホテル、あるときはエステティック店と、様々な業種のクーポンをユーザーに提案する。
ユーザーに新しい行動・経験を提案するという意味では、雑誌に似た役割を果たしていると言えるだろう。
従来のインターネット経由のクーポンの提供方法は、特定の業種毎にクーポンが提供されることが通例だった。
例えば、ぐるなびの様な業種特化型ポータル・サイト経由での提供、一休や楽天トラベルの様な旅行予約サイトのように業種毎のECサイトによるディスカウント・チケットの販売、それら以外はTSUTAYAやマクドナルドの様に各企業、各店舗が独自にウェブ・サイト等で提供しているといった状況だ。
これでは、ユーザーは特定のサービスが必要な時だけウェブサイト等に接触するという形になりやすく、ユーザーとの接点が途切れがちになる。
一方で、リアルなサービスに目を向けると、ホットペッパー、ぱど、地域型フリーペーパーなどが業種横断でクーポンを提供しており、TポイントやPONTAといった共通ポイント事業は業種横断で連携をしながら、ネット&リアルでポイントを絡めてクーポンを提供している。
これらのクーポン配布は、様々な分野のクーポンが出せるものの、いずれもフラマ・サイトほどインパクトのあるオファーはできていないのが現状だろう。

また、1day 1area 1deal形式には、もう一つの大きな特徴がある。
それは、シンプルでインパクトの強い提案ができるということだ。
通常のインターネット・サービス、特にアジア地域の場合は、トップページには、あふれんばかりの情報が並べられている。確かにこれを楽しんでいるユーザーもいるのだが、大部分のユーザーにとっては情報量が多すぎて、何が自分にとって良いのかわかりにくい。
こういった情報を整理し、情報の配置やナビゲーションを効率化すべく、アイ・トラッキングと言ってユーザーの視線がどう動き、どこに止まったかなどを分析する装置やサービスまでできている。
1day 1area 1deal形式は、従来のアプローチとは全く異なり、敢えて多くの情報を盛り込むことをせず、
「今日、この地域で、あなたに提案したいのは、このディールです」
というシンプルな作りを徹底し、ユーザーに対するインパクトを生み出している。